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フランスのイスラム学者ジル・ケペル

 フランスのイスラム学者ジル・ケペルの Beyond Terror and Martyrdom を読み終わったので、いくつか気になったことを書いてみます。

 ブッシュ政権はアフガニスタンでタリバンをやっつけ、イラクでサダム・フセインの体制を無くせば、簡単に中東に民主主義を誘発させることができると考えていた。ところが実際は簡単にはいかず、ケペルは「ブッシュ、チェイニー、及びネオコンの面々、もう一方のビンラディン、ザワヒリ、アルカイダ達はどちらも同じように、軍事的手段によって世界を修正しようとした。しかしこれらの手段を正当化させたユートピア的目的、(アメリカの場合は普遍的デモクラシー、アルカイダの場合は普遍的なイスラム国家)を達成させることは困難であり、数年も立たないうちに彼らの夢は終わりの無い悪夢となってしまった」と書いてアメリカのやったことはアルカイダと同じなのだと私が今まで見た中で最も痛烈に批判しています。

 ファリード・ザカリアは以前にアメリカに住んでいる中東の人たちはアメリカに同化しているのに、ヨーロッパに住んでいる中東の人たちはテロばかりしていると書いていたように記憶していますが、ケペルはそれについても分析しています。彼はフランスの世俗的同化政策とイギリスやオランダの多文化主義を対比させています。ケペルが書いている多文化主義はどうも日本人が考えているものとはだいぶ違うようだ。本国人は移民達のコミュニティーに干渉しないし、逆に移民達も本国人のコミュニティーには干渉しないという状態でお互いに国家を支えようというものがmulticulturalismの正体らしい。

 結局このような状態で中東移民のコミュニティーが過激化してもそれ以外の人たちにはわからず、イギリスの場合ではイラク戦争に参戦した後にテロが活発となっていった。それに対してフランスにおいても車が焼かれる暴動が起こったが、これはイスラム過激派とは直接つながりは無く、仕事や住居などで差別されているというあくまでも世俗的なことに対しての不満が原因だったと書いています。

 最後にアメリカの軍事的な政策にとって変わって中東に本当に必要なことは「起業家が育ち、民主主義の根をはることができる中東とヨーロッパの経済統合を強めることである」と書いていますが、経済が発展する為には安定した政治体制が必要でそれが中東では一番の問題ではないかと逆説的に考えてしまいました。
by masaya1967.7 | 2009-01-04 01:51
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