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鳩山外交を分析する。


 鳩山首相は月刊誌『Voice』9月号に自身の勧める「友愛外交」について次のように語っています。

 「『友愛』が導くもう一つの国家目標は、『東アジア共同体』であろう。もちろん、日米安保体制は今後も日本外交の基軸であり続けるし、それはまぎれもなく重要な日本外交の柱である。同時に我々はアジアに位置する国家としてのアイデンティティーを忘れてはならないであろう。」

 キッシンジャーの『外交』にアメリカ外交の特徴として一方には「孤立主義」がありもう一方には「十字軍」があると書いていました。これと同じように日本にも近代に入ってから、一方には「脱亜入欧」がありもう一方には「アジア主義」が存在するようになりました。基本的に、これが振り子のように動いてきたのが近代日本外交の特徴であった。

 「大東亜共栄圏」というモロ「アジア主義」の夢が無惨に破れた後、日本は冷戦中アメリカと同盟を組んで「脱亜入米」で冷戦を乗り越えたのであった。ところが冷戦が終わった頃から、ちらほら「アジア共同体」という声がリベラルな人の口から聞こえるようになったのである。一方、保守派の間では、集団的自衛権を日本が認めることによって、日米同盟を強化することが最重要課題だと主張していた。

 このように日本国内で「アジア共同体」という現代版「アジア主義」を主張するリベラル派と日米同盟を強め中国との対決を主張する保守派の間で深刻な分裂が生まれたのであった。このような分裂を放置してはいけないと鳩山首相は考えたのであろう。彼は日本のリベラル派と保守派との均衡を保とうとして、アジア共同体+日米安保という構想を考えたと思われる。

 鳩山首相は『Voice』論文において、日米同盟を捨て去るとは全く言っていないのにも関わらず、アメリカでは「アジア共同体」や「アジア共通通貨」という言葉をとりあげて、ヒステリックに批判されていた。鳩山首相も意外に思ったであろう。これはどこに理由があるのだろうか。

 明治維新以前、日本は4つの島で200年以上平和に暮らしていた。そこにペリーというアメリカ人が黒船に乗ってやってきて国を開けと命じた。あげくに領事裁判権や関税自主権のない不平等条約を押し付けられてしまう。今度、日本が近代化して立派な帝国主義国になるとルーズベルト大統領は日本を4つの島に閉じ込めてしまえといい、トルーマン大統領は2つの原爆を落としたのであった。

 アメリカのやったことは、まことに勝手なものであると筆者は思う。それでも何か一貫性があるとしたら、アメリカは日本をアジア大陸の政治に深く首を突っ込ませないようにすることにあったと思われる。アメリカ人は何故かアジアから排除される事を深く恐れており、鳩山首相がアジア共通通貨やアジア共同体に言及したとたん、その恐怖に火をつけたと思われる。

 デニス・ワイルダーという元米国家安全保障会議上級アジア部長が『朝日新聞』に「日本がより大きな役割を果たす事を、米国は常に望んでいる。アジア共同体のような新たな国際機構を作る事も歓迎だ。だが米国を排除せず、アジアの一員として加えてもらいたい」と語っているが、アジア上級部長でさえもが、下手をすればアメリカが排除されると思っているのだ。他の人は推して知るべしである。

 私は、鳩山首相の主張する「アジア共同体」はそう簡単に実現できるとは思っていない。げんに中国の胡錦濤 主席との会談でもあまり芳しい反応は得られなかったようだ。それでも「アジア主義」と「欧米主義」をいかにバランスさせていくかは、これからの日本外交の課題であると思う。

 
by masaya1967.7 | 2009-10-03 00:49
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