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『核神話の返上』

 防衛システム研究所編纂『核神話の返上』という本を読みました。この本は複数の元自衛隊員によって書かれていますが、最近読んだ核兵器関連の本では最も充実している内容に仕上がっていると思います。各国が何故核を持つようになったかを『比較』の観点から論じ、また『歴史』的に考察しているところに好意を覚えます。そのなかで特に感銘を受けたところを書いてみたいと思います。

 著者は現在のアジアの状況を次のようにとらえています。

 「アジアにはロシアの中距離弾道ミサイルがそのまま残っており、中国は依然として核兵器と弾道ミサイルの近代化を進め、北朝鮮もその仲間に入ろうとしているからである。」

 その結果、これらの国から核攻撃を受けた時に本当にアメリカは日本を助けてくれるのだろうかという疑問がわいてくることになったのです。実はこれと似たようなことが冷戦中のヨーロッパでもおこりました。ソビエトがヨーロッパに対して中距離核ミサイルSS-20を1980年代に配備するようになったのですが、そのときヨーロッパでアメリカは本当に自国を犠牲にしてまでもヨーロッパを助けるだろうかという疑問が持ち上がったのです。

 「そもそもソ連がSS-20をヨーロッパに配備した背景には、ヨーロッパに局地的な戦争が起こったとしても、アメリカは自国からソ連に対して報復核攻撃を行うようなことはしないだろうという考えがあったと思われる。SS-20はしたがって、米欧を分断し、ヨーロッパだけを戦場としてアメリカの介入を阻止することを狙いとした核兵器であり、ヨーロッパをアメリカの核の傘から外すことが狙いだった。」

 これは当時、デカップリングなどと呼ばれていました。ここでヨーロッパが偉かったのは反核運動が盛り上がる中ヨーロッパの首脳達はSS-20と対等なミサイル(パーシング2など)を配備することを決定したのでした。この決定が後に中距離核の全廃条約に結びついていくのです。

 現在日本がロシアや中国(いずれは北朝鮮)からの中距離核によって狙われていることを考えれば、このヨーロッパの決定に学んでも良いのではないか。北朝鮮が6カ国協議を核軍縮の場にしようとほざいていますが、日本がアメリカの中距離核を持ち込むことによってアジアでもヨーロッパのようなINF全廃条約のようなものが達成される可能性があるのです。さらに重要なのは現在キッシンジャーが中心となって核軍縮を行おうとしていますが、その中心は戦略核にあって、それが減らされる分だけアメリカの日本に対する核の傘が減らされているという日本にとっては厄介な状態がせまっているのです。

 さて日本は非核3原則の「持ち込ませず」を変えるつもりはあるのでしょうか。さらにアメリカは日本の核持ち込み要請に応じてくれるのでしょうか。北朝鮮が核実験を行った時に先日クビになった中川大臣などが核の議論を行うべきだといったところ、ライス国務長官が日本に急に飛んできて火消しに躍起になったことは覚えていましたが、その時にブッシュ大統領は「日本の核武装は中国の懸念材料になる」といったそうです。

 結局、日本もアメリカもヨーロッパがとった行動を真似ることはないのでしょう。ここでは慰めにならないかもしれませんが単純な計算をしてみたいと思います。北朝鮮が核実験を行った年が2008年でした。ソビエトがヨーロッパに対してSS-20を配備しだしてヨーロッパが中距離核の悪夢におびえるようになったのが1980年初頭。これでアジア情勢はヨーロッパに対して28年時間差があるということになる。

 また、ソビエト連邦が発生した年が1922年で中国共産党が建国を宣言したのが1949年。これの時差が27年。そこでソビエト連邦が崩壊した年が1990年だから、ヨーロッパとアジアの歴史的時間差が27、8年とすると中国共産党の崩壊は2017、2018年頃と単純な帰納法で推測できることになる。それまで我慢するしかないのでしょう。

 
by masaya1967.7 | 2009-02-26 06:57
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